中大規模木造建築物の最近の動き

中大規模木造建築物に関する動きが 最近 活発であるようなので 最近の動きをまとめてみました。

➀はじめに

2010年に制定された 公共建築物木材利用促進法と CLT(cross laminated timber)

の促進普及を受けて各地で大規模木造建築物が建設されています。

中大規模木造建築物は、建設業界のテーマとなっています。

⓶公共建築物木材利用促進法

「公共建築物木材利用促進法」が2010年10月に施行された。この法律

は、建物の構造体を木質材料とする木造化、内装その他を木質系材料とする木質化という二つの概念で木材の利用をすすめることとしています。

さらには、2010年10月に「低層の建築物は、原則的に全て木造にしなければならない」という方針を国が固めました。これまで、公共建築が鉄筋コンクリート造であったことを考えると、画期的な方針となっています。

2022年時点から遡って10年間で、中大規模木造建築物の技術開発は大きく前進してきており、7階建てや11階建ての建築物が、木造で作られてきています。

そうした状況をうけて、2021年6月に上記法律は、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」と改正された。法律の対象が、公共建築物から、一般の建築物にまで拡大されることになり環境意識の広がりととともに、今後、中大規模木造建築物の領域は、民間建築物にまで大きく普及していくことになるでしょう。

③中大規模木造建築物の規模

おおむね 4階建て以上 1000m2超の建築物が 中大規模建築物といえるようです。

④第一次大型木造ブーム

1980年代後半から 大スパンというものをキーワードとして、ドームやアリーナのような建築がつくられました。

詳しくは、当社公式ブログ 木造建築をみつめなおして 記載

⑤多層の木造建築物

1時間耐火構造の認定が取得できてから、木造建築物の多層化がはじまりました。一般用途の建築物の場合、4階建てには1時間耐火構造が、5階から13階までは、2時間耐火構造が求められます。

 

1階部分をRC造とし、その上4層を1時間耐火構造の木造建築物とするような建物が、地方都市において多く必要とされるかと思われます。

木造4階建て住宅の商品化が相次ぐ | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

そのうちに、4階建て程度の建物は木造で作られるようになるかと思われます。

日本初の純木造7階建てテナントビル 完成見学会&オンラインセミナー開催!|株式会社シェルターのプレスリリース (prtimes.jp)

写真は7階建てのテナントビルである。構造体は、製材をボルトで縫った合わせ梁、束ね柱で、これを石膏ボードで囲って1時間、2時間耐火性能としている。

 

日本初、純木造の11階建て高層耐火建築物。大林組 – Impress Watch

上記は、11階建て木造建築物です。2時間耐火構造の部材が認定されたことにより実現したものです。

最近では、3時間耐火構造を取得するところもあらわれ、防耐火の観点から、木造建築物による高さ制限はなくなりつつあることを意味しているようです。

⑥ 高倍率の面材耐力壁

以上のような多層 大規模な木造建築をつくるためには、より高耐力の壁が必要になります。

現在の仕様規定では、壁倍率5(許容せん断力で9.8KN/m)が上限で、許容応力度計算でも7倍相当が限度とされています。しかし、これでは、多層木造建築物としては、耐力が不足するようです。

一般的には、構造用合板などの面材を用いた壁の耐力は、釘接合部の耐力と面材自体の耐力の弱いほうで決定されます。前者のほうが、弱い場合が多いので、壁全体の耐力は、釘接合部の強度特性の累加で決定されます。よって、釘打ち本数を増やすか、1本あたりのせん断強度の高い釘に変更すれば強度をあげることができます。

従来、釘打ち間隔は、15cmとされてきたが、許容応力度設計では、10㎝や7.5cmも採用できます。また釘は、N50が以前は一般的でしたが、CN50やCN75といった釘も用いられるようになってきました。

壁の厚みも12mmではなく24mmのものが、使われる例も出てきており、厚さ24mmの合板にCN75@75mm2列打ち という仕様にすれば、30KN/m程度の耐力壁が可能となります。

 

⑦高耐力の筋交い

筋交いの見直しも行われてきている。従来の大型木造建築物の多くは、筋交い構造でした。筋交いは軸方向強度の大きい木材の使い方としても合理的です。

非住宅用の筋交いは、住宅用の筋交いに比べて圧倒的に断面が大きいのが特徴であります。求められる耐力が大きいので、その断面になるのですが、筋交いを座屈させないこと、端部接合部が大きくなることも影響しています。

住宅用の筋交いは、断面が小さく、圧縮の力が加わった時に座屈して耐力を失う可能性があります。よってあくまでも、住宅のような小規模の建築物に用いられるまでとなることが多いです。

 

非住宅用の高耐力の筋交いの場合、鋼板ドリフトピン接合として、圧縮と引張は同じ耐力とすることが多いです。その際、ドリフトピン接合やボルト接合は、ドリフトピンやボルトの配置ルールから接合部が大きくなり、筋交い自体も大きくなることが多いです。

 

⑧高耐力壁と柱脚金物

耐力壁の耐力が大きくなると、壁端柱の引き抜き力が大きくなります。

木材面から突出しない高耐力のホールダウン金物 – 製品ガイド:建築・住宅:日経クロステック Active (nikkeibp.co.jp)

従来、住宅用の金物は30KN程度が上限ですが、メーカーより60KN程度のものが発表されています。現在は、120KN程度の金物が開発されています。

⑨CLTパネル工法

クロスラミナティンバー工法(CLTパネル工法)が注目されてきている。厚さ30mm程度のひき板を3層から9層程度直交して重ねて接着したものです。直交することで木材の異方性を小さくすることができます。木材による板状の躯体工法として利用できることから、日本の林業の活性化に役立つものとして期待されてきています。計算方法としては3つあり、それぞれルート1,2,3となっています。ルート1(許容応力度計算)は、高さ13m以下、軒高さ9m以下、3階以下の建築物に適用できます。ルート2(許容応力度計算)は、高さ31m以下、3階建て以下に適用できます。ルート3(保有水平耐力計算、限界耐力計算)ルート2を超える建築物に使用します。ルート2とルート3は 立体フレーム解析のできるプログラムが必要になります。

CLTパネル工法の耐力壁は、小幅パネル、大版パネル➀、⓶にわかれたパネルにより構成されます。地震時にパネルが回転しようとするのをどのような靭性のある接合部で留め付けるのか工夫が求められています。また、形状の悪い敷地や小規模の建築物には主に小型パネル等が用いられるようです。

⑩流通材を用いた架構

 

事務所 [一般流通材・加工技術でつくる中規模木造建築物:家守り工房] | 受賞対象一覧 | Good Design Award (g-mark.org)

105mmや120mmの正角材、及びそれらを短辺寸法とする平角材を、ここでは流通材と呼ぶことにします。主に住宅建築用に見込み生産されている部材のことであります。

流通材を用いた多様な架構が日本では、特に発達しているようです。海外の住宅は、基本的に、2×4構法かそれの類似品が主体となっており、木材は、それにふさわしいようにカットされています。日本のような105もしくは120mm角の流通というのはほとんどないようです。製材による流通材を活用した架構は、日本独自に発達している構造方式といえるようです。

⑪木造ラーメン

現在、大いに実験が行われており、今後実用化にむけて大きく動き出すといわれています。

軸組み構造に耐力壁と筋交いを組み合わせて設計されることがもとめられているようです。

接合部に合わせ梁型、鋼板挿入ドリフトピン型、鉄筋挿入接着工法があります。

 

木造ラーメン構法 [木箱212構法] | 受賞対象一覧 | Good Design Award (g-mark.org)

合わせ梁型 パネルゾーンにボルトを円形や矩形に配置する方法です。

 

STROOG|リポート: 木造ラーメン構造とは

鋼板挿入ドリフトピン型

 

木造軸組工法による中大規模木造 建築物の普及促進の取組みについて|特集記事資料館|建設総合ポータルサイト けんせつPlaza (kensetsu-plaza.com)

柱梁にチェーンソーでスリットを開け、9mmや12mmの鋼板を挿入して

ドリフトピンをうつものです。

二つの接合は、施工性はよいですが、木材どうし、木材と鋼板の先穴部分のガタにより、モーメント抵抗性能にスリップの挙動がみられることから、これを考慮した設計が必要となります。

木造ラーメン接着工法 | エポキシ樹脂接着剤、モルタル【アルファ工業】 (alpha-kogyo.com)

鉄筋挿入接着工法

梁に開けておいた穴に異形鉄筋や全ねじ筋をいれ、エポキシ樹脂で固めるものです。鉄筋コンクリート梁の主筋の位置に異形鉄筋を配置し、モーメントを負担します。

⑫耐火性能

木造建築物の多層化、大型化に耐火性能は欠かせません。4階建ては1時間耐火構造、5階建て以上は2時間耐火構造が求められるからです。木造の耐火部分には➀被覆型(メンブレン型)⓶鋼材内蔵型③燃えどまり型があります。

COOL WOOD Q&A – 株式会社シェルター (shelter.inc)

もっとも普及しているのはメンブレン型であり、2時間耐火の仕様も公表されています。ただし、石膏ボードで木が覆われるために、木造を表現できません。

鋼材内蔵型は、構造的には鉄骨造となります。木造のデザインを表現できることから、多層建築物に用いられてきています。

一方で、構造体も木造であり、表面上も木材を表現できることから、燃えどまり型への期待は今後も大きくなると思われます。モルタルを組み込んだ耐火部材、難燃処理木材を利用した耐火部材、石膏ボードを利用した耐火部材など 外側に木材が貼られた部材が、大手ゼネコンで開発されています。

⑬非住宅建築物の資材調達 施工 コスト削減力

大断面の集成材は、個別に設計されて受注生産されています。一方、住宅用の集成材は、見込み生産されており、全国で流通しています。両者には、価格の開きが大きいです。中大規模木造建築物に住宅用資材を利用してコスト削減する動きが活発なようです。住宅用の資材と大型木造用の資材との使い分けが木造建築物のコストダウンのポイントとなるようです。また、柱スパン6mまでは製材で使用可能ですが、それを超えると集成材になり、10-12mとなると組み立てトラスになるといわれています。

 

以上、

 

今後、日本国では特に 木造建築物の規模、対象用途が広がり、木造建築物の普及がさらに推し進められると考えられます。我々設計者は、技術的なこと、意匠的なこと、生産体制、流通体制、施工体制、価格に注意を払ってまいりたいと考えています。

 

 

 

 

 

 

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