耐震診断と補強方法のポイント(木構造講座⑨)
耐震診断 耐震補強のポイント
耐震診断の種類と特徴
既存建物の耐震性を検証することを耐震診断という。耐震診断の目的は,大地震時における建物の倒壊を防ぐことである。3種類にわけられる。
①簡易診断
建築技術者でなくてもできるように作成された一般向けの診断法
②一般診断
建築技者が行う最も汎用性のある診断法。部材の老朽度を加味して壁量計算と同等の検証を行い 地盤や基礎の状況も把握する。
③精密診断
壁量計算 許容応力度計算に相当する検討を行うものと保有水平耐力計算 限界耐力計算 時刻歴応答解析に相当する検討を行うものがあり,高度な構造的知識を必要とする。
一般的にS造やRC造では,1981年の新耐震設計法以降であれば問題ないとされる。しかし、木造に関しては,必要壁量については1981年に現行法の規定量となったものの,耐力壁の配置や引き抜き接合など 耐力壁が有効に働くための条件が規定されたのは2000年である。従って 木造は2000年以降でなければ 耐震性があるとはいえない。
現地調査におけるチェックポイント
①耐力壁が有効に働くような状況か
②鉛直加重をしっかりと支えているか。
建物形状や 軸組み 耐力壁 水平構面 基礎 接合部の各要素がどのように構成されているかなど建物全体の特徴を把握しておく。継ぎ手の位置と上下階の連続性を確認する。
具合的には、図面をしっかりととり、壁の位置と材質を確認し,床下と小屋裏の状況を確認し、建物の劣化状況を確認しなければならない。
耐震補強の方法
耐震性向上のための改修を耐震補強という。耐震改修は構造面だけでなく,居住性やデザイン,施工性,コストなどを総合的に考える必要性がある。
耐震性を向上させるには
①強度の増大を図る →耐力壁を増設するのが最も一般的
②大変形の追随を確保する。→既存の耐力壁や柱の接合部を補強したり、腐朽部材を交換法があげられる。このうち、接合部の補強は耐力壁の性能を発揮させるために重要なのだが、箇所数が多いので、仕上げ材を剥がして施工しなければならないなど、工事範囲が広範囲にわたる点に注意が必要である。
③地震力を低減する。
瓦屋根の土を取り除いたり、金属板ふきにしたり、外壁のモルタル塗りを乾式工法の仕上げに変更するなど,屋根や外壁の仕上げを軽量化することで地震力を低減する方法である。
具体的な補強例
(1) 軸組みの補強
腐朽部材を交換する。添え柱を設置する。梁端部や継ぎ手を引っ張り金物で補強する。腰壁 垂れ壁も含めて面材で軸組を固める。
(2) 耐力壁の補強
耐力壁を増設する。壁倍率の高い仕様に変更する。既存の筋交い端部に金物を取り付ける。天井裏に小屋筋交いを設ける。床下に根がらみを設ける。耐力壁が取りつく柱の仕口に金物をとりつける。
(3) 水平構面の補強
火打ちを増設する。床板や野地板を構造用合板で固める。床板や野地板を斜めに張る。外周梁の接合部を金物補強する。
(4) 接合部の補強
梁端部に羽子板ボルトを取り付ける。継ぎ手を金物で補強する。筋交い金物を取り付ける。柱脚の引き抜き金物を設置する。アンカーボルトを設置する。
(5) 基礎の補強
無筋基礎に鉄筋入りの基礎を増設する。内部あるいは建物外周部に土間コンクリートを打設する。ひび割れ補修を行う。
補強の優先順位
(1) 鉛直荷重を支える
現地調査を行うと乾燥収縮により接合部が外れかかっているものや,足元が腐って柱が宙つり状態になっているものがしばしば存在する。これらは耐震性以前の問題で軸組が鉛直荷重を支えていない。補強を行う際には,鉛直荷重を支えるという構造体にとって最も基本的な役割を果たせるようにすること。具体的には,腐朽部材を交換するほか、梁をしっかり支え、抜けないようにつないでおくことが重要。
(2) ねじれを防ぐ
耐力壁の量が少し不足する程度であれば、地震による被害は、倒壊を免れることもある。しかし、耐力壁が偏って配置されていると、たとえ壁量が十分であってもねじれて倒壊する危険性が高い。耐力壁の量を確保するよりもねじれを防ぐことを優先的に考えた方がよい。
(3) 建物外周部の接合部の抜出を防ぐ
水平力がかかると、建物の外周部には大きな引っ張り力と圧縮力が働く。この時引っ張り力に対して接合部が抜けてしまうと鉛直荷重を支えることができなくなり、倒壊に至る。したがって、鉛直荷重の支持能力を確保するためには、最低限でも建物の外形を保持するように、外周部の接合を補強することが有効である。