構造計画の最重要ポイント(木構造講座⑧)木造建物
構造計画上の最重要ポイントをまとめる。
①耐震設計の基本理念
1981年の新耐震設計法導入に伴い設計手法は以下のもので成り立っている。
A 震度5以下の中小の地震に対して建物は損傷しない。
B 震度6強のごくまれに起こる大地震に対しては,ある程度の損傷はあっても倒壊せ
ず、地震を守る。
これに基づき材料の許容応力度や必要壁量が定められている。
②地盤災害
建物の地震被害は,地盤と密接な関係にある。関東大震災で統計的に実証された。木造家屋の被害が,山の手よりも下町で顕著であった。下町は,軟弱層が30m以上も堆積しているため,地盤の周期が長く,揺れが増幅される。しかも、当時の木造家屋は耐震要素が少なく柔らかい構造で固有周期が長い為,一種の共振現象で変形し倒壊した。
また、液状化の現象が多く関係し,水を多く含んだ緩い砂地盤で発生し、このような地盤が日本全国に多く存在することが知られている。したがって,建物を計画するときには,まず、敷地の地盤性状をよく把握することが重要になる。
軟弱地盤の上に建物を建てるには、べた基礎にする他、耐力壁を割り増しして計画する必要がある。
③基礎は 連続性をもたせる。
伝統工法の基礎形状は,束石基礎が一般的であった。しかし、束石基礎は基礎に連続性がない為,柱が不同沈下を起こす原因となる。また、床束と束石がはずれやすい。このように足元がバラバラになりやすい状況では,いくら上部構造をしっかり組んでも意味がなくなる。
ゆえに、基礎は地震力が作用しても平面形状を崩さず,一体化して動くことが重要で、現在はべた基礎か布基礎にして一体性を持たせることが重要である。基礎の計画は,上部構造と連動させて考え,格子状に基礎を設け,基礎の剛性を高めるように計画する。
④耐力壁が耐震性の向上に影響
現在の木造住宅の耐震設計は,耐力壁によって地震に抵抗することを基本としている。壁量計算は確認申請のために行うのではなく、耐震設計を行うためにあると認識すべきである。
⑤バランスの良い壁配置
壁量を確保していても大きな被害を受けることがある。建物の地震被害例をみると木造に限らず建物がねじられて破壊するケースがよくある。たとえ建物全体で必要な壁量を確保していても平面配置が偏っていると建物はねじれる。耐力壁をバランスよく配置することが重要である。
⑥水平構面はかくれた耐震要素
地震被害の中で,主屋からはねだした下屋先端が大きく変形して傾いたり,柱がバラバラの方向に傾いたりする例は多くみられる。
これらの被害は,水平構面,すなわち床面や屋根面の水平方向の強さや変形性能が原因となっていることが多い。
木造住宅では,土台の隅や2階の床組及び小屋組内に火打ち梁を設ける。これは、床面が平面的に歪まないようにするための処置である。水平構面の強さは耐力壁の量や配置と密接な関係があり重要な要素である。
⑦接合部の仕様
柱 梁の抜き出しや筋違のはずれが、多く見受けられたため、2000年に改正建築基準法が制定された。接合部をしっかりと金物補強することで、耐力壁の利き具合が変化する。梁端部の仕口,継ぎ手も重要であるのでしっかりと計画したい。
⑧防腐 防蟻を行う。木造建物が老朽化する大きな要因は,木材の腐朽と蟻害である。屋上や屋根の雨仕舞が悪く、雨水侵入が生じ,木材が普及した場合や、湿気による木材の湿りを蟻が食すことにより生じる。事務所の改修実績から考えても,ユニットバスでない在来の浴室は、結露による被害で,木材が腐朽している例が6割近くにのぼっている。床下や小屋裏等の痛風をしっかりと確保して,雨水侵入のない家をつくり、丁寧に保全していくことで家が守られていく。
建物形状と構造計画
木造住宅の構造計画で最も重要なことは,「床剛性を考慮して耐力壁を配置すること」である。その為には構面をなるべく一定間隔で配置し,主構面に耐力壁を配置するように意識すると,架構が整理され,構造的にも施工的にも無駄の少ない計画となる。
①耐力壁の偏在
重心と剛心の位置ができるだけ一致するような耐力壁の配置としなければならない。
剛心とは、建物の剛さの中心である。たとえば、南も北も同じ壁量であれば剛心は建物の中心であるが,壁が北側に偏っていれば剛心は北側寄りになる。重心と剛心にずれが生じていることを偏心というが ずれの長さが大きければ大きいほど水平力が作用したときのねじれは大きくなる。たとえ、偏心が小さかったとしても,外周部に壁がなく中心部に偏在しているようなプランは外周部が大きく振られやすい。特に木造の周辺構面は柔らかい為耐力壁は極力外周部に設けるようにしたい。
②セットバック
部分的に2階がのる建物をセットバックという。構造的にみると建物から突出した部分は水平力が作用したときに振られやすい。
プラン上,2階の外壁面には耐力壁があるが,その直下には耐力壁がない場合,2階の耐力壁が負担した水平力を下屋の外壁面までどのように伝達するのかを考えなければならない。対策としては、下屋の屋根面、天井面を固めるほか、2階耐力壁→下屋屋根面→下屋の耐力壁の各面が連続するように計画する。
③小屋裏 中間床
2階の耐力壁は屋根面を伝わってくる水平力に抵抗する。その為2階の耐力壁は2階の床面から屋根面まで連続していなければならない。
しかし、木造では小屋梁から上の部分を2階の構造と切り離して考える人が多く,二階の耐力壁が小屋梁まで,あるいは天井まででとまり、小屋裏にはまったく壁がないということが少なくない。鉛直荷重の支持方向だけでなく,水平力に対する支持方法も考え,その下に耐力壁をもうけるようにする。