ミケーレ・デ・ルッキと藤本壮介の講演会
先日、建築家の藤本壮介と イタリア人建築家 ミケーレ の講演会に行ってきました。
いくつか興味深い話がありましたので 記載して 共有したいと思います。
神戸のKIITO会館で 行われました。
イタリア人建築家・ミケーレ・デ・ルッキは、1980年代にデザインムーブメントを巻き起こしたデザイナー集団〈メンフィス(Memphis)〉の主要メンバーとして活動。イタリア国内外にて住宅、産業施設、オフィスや文化施設等の建築プロジェクトやミュージアムのプランニングなどを手掛け、建築・デザインの分野において現在に至るまで常に第一線で活躍し続けています。日本国内では、「ジンズ(JINS)デザインプロジェクト」でのコラボレーションや白井屋ホテル(群馬県)のスペシャルルームを手掛けたほか、現在は、神戸のランドマークであった旧六甲山ホテルを《六甲山サイレンスリゾート》として再生する5年間のプロジェクトを主導しています。
建築家藤本壮介は、国内のプロジェクトでは、2019年津田塾大学小平キャンパスマスタープラン策定業務のマスターアーキテクトに選定されたほか、2020年に2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)の会場デザインプロデューサーに就任。2021年には大分空港海上アクセス旅客ターミナル建設工事基本・実施設計業務最優秀者に選出、飛騨高山大学(仮称)本校キャンパスの設計者に選定されている人です。
まずは、ミケーレさんのEARTH STATIONS というものの説明から始まりました。
「EARTH STATIONS」とは、建築の進化する役割と象徴的な建物の必要性をめぐる考察から生まれた、新しい建築のタイポロジーであるということです。各STATIONは5つあり、地球上の気候により分けられていました。社会心理学者や精神科の専門家、建築家、教育者などの人々の行動や暮らし方に対する様々な意見を集めて、よりよく過ごす暮らし方、働き方、出会い方をイメージして、設計したものですとのことです。お互いに教えあったりする場、趣味やコミュニティを作って暮らしていく場など、様々な場を検証して、気候風土にあったその土地にしかない資材や手工芸を用いて、建物をつくるというコンセプトにたっています。大量消費は悪循環を生んでいる今日に、サステナブルな建築を目指して設計しているとのことです。
比較的温暖な気候のSTATION
柱で大空間を支える構造なのかな よくわかりません。
その土地の手工芸を十分検討して建物を考えているようでした。
これは砂漠におけるEARTH STATIONの在り方を表現したものです。
風が抜けるような構造になっているようです。
こちらも砂漠地帯の手工芸の技術を よく検討されていることがわかります。仮面や、ペルシャ風の絨毯がみられます。
アーチによる構造も使われています。
熱帯地域におけるSTATIONの在り方を表現したものです。
竹を使って建物を作っているようでした。竹を使った大空間が出来上がりっています。
これは、北国のSTATIONの在り方を表現したものです。
木でこの建物を設計しているようです。
木やアザラシの骨と皮を使った空間が内部にできあがっています。
ログステーション こちらも比較的寒冷地における STATIONの在り方を表現しています。
内部は大きなドームにより空間を仕切っているようです。
これは実際に建築されているミケーレさんの作品です。
こちらは実在はしていないイメージパースです。実務を行っている人間からすれば、断層は地盤が弱いために、はたして構造的にどうなのか心配ですが、インパクトはありますね。
実作のようでした。
森林での休憩所 ホテルのようです。
こちらも実作です。
実作です。
これは、神戸の六甲山の頂上にたつ六甲サイレンスリゾートのパースです。旧館に対して、新たに円の建物が木造でできあがります。円という形状は、様々な観点でものを考えるのに適しており、歩けば景色が変わるとても独特な建物となります。正面や裏口という考え方のない、部屋の差別化をしない建築をつくり、設計に日本の手工芸が多く用いられているとのことでした。
最後に藤本さんの万博のイメージパースでした。こちらも六甲のホテルと同じようにリングの形をしています。偶然に一緒ということだったそうですが、世界の国がつながり、協力し合うというコンセプトのもとにリングで出来上がっています。
来場者から、これは、城壁のように囲っているように思われますとの質問がありましたが、それは、囲っているのではなく、柱と梁で構成されているが、内外を往来でき、雨の日は、その屋根下を通っていきたい場所に向かうことのできるリングということでした。
今回最も興味深い話が、ミケーレさんの蟻の社会の在り方でした。
「蟻の社会の構成員の蟻は、30%は食べ物を探す役割をしています。その他は、それを貯蔵するための蟻や、蟻を生むための蟻がいて、指揮官の蟻や警察官の蟻も存在しています。基本的に、蟻の社会は、自分のやるべきことをやるためにその社会の構成員として存在しているのですが、10%の蟻は、他の蟻の足をとったり、邪魔をしたりする蟻がいます。そこで、科学者がその10%のお邪魔虫を一度に排除する実験をおこなってみたところ、蟻の社会は瞬く間に消滅したそうです。」現在の国境に纏わる紛争等も、国境とは人間が作り出した虚構であり、また社会であり、そして、その社会を引っ張る蟻のような人間も存在するわけです。しかしながら、その悪をすべて無くしてしまうのではなく、コントロールして、よりよく生きるための空間をつくることに意識を集中していけないだろうかと考えているとのことでした。
最後に 司会進行のかたが、藤本さんに今後、どのような建築を作っていきたいですかと 聞いたときに
なるべく壁をつくらない、いろいろなものがつながっていけるようなコミュニケーションの実感のあるような空間をこれからも目指し作っていきたいとのことでした。
蟻の話と、その土地の文化や手工芸を紐解いて建築をつくるという考え方に、触発されたように思います。