お寺の建て替え 今日の寺院の課題 神戸市兵庫区
2019年7月時点において、神戸市の某所にてお寺の建て替えを進めています。設計は終わり、秋から工事に入ることになると思います。絵は、当初のイメージです。予算の兼ね合いから、2階建てが平屋になり、形はだいぶ違うものとなっています。
寺の現代的な課題
歴史的には、鎌倉時代以降になって、庶民に対する布教施設としての寺院が建設され始めます。その後、宗派ごとに組織化され、おおむねコミュニティが造ったコミュニティのための寺とそれらを統括する本山的な宗派中枢の寺に区分することができます。
・檀家制度 会員組織による仏教文化のクラブハウス
維持するのは広い意味での仏教文化の享受 仏教思想の学習 人生相談 コミュニティの集会 祭典の維持 子弟の教育
空間構成としては、本堂、多目的に使われる書院、多目的住居的な庫裡となる。お寺の儀式が本堂の平面構成にあたえる影響は少なからず存在する。
寺院設計の際 考慮すべき問題点
① 床座から椅子座に切り替えること
日常の椅子生活に慣れ、胡坐ですら、たえられないという状況が現代的に存在しています。よくある手法として、参詣者のみに椅子を提供する方法と、儀式空間である内陣を舞台のように数10cm高くして、舞台の上 僧侶側では床座様式を維持する方法などがあります。本堂では基本的には椅子座とし、床仕上げを板張りなどとして 最大限利用時の床座の可能性も残しておく といった 椅子 床 両用の可能性によって対応を想定して設計します。仏具、作法を考え直し、部屋の配置を考え直す。
②スリッパ
スリッパを建築的にどう扱うか 清潔で快適な床材が存在しえないか座敷、便所の入り口でどのように処理するのか。
③後光
本尊付近の暗闇とそこに光明をもたらす仏の関係
軒の出が深い、歴史的な日本建築寺院は、その軒の深さのため、堂内は暗闇が多く、仏は黄金ででした。沈痛なる美しさと表現されます。真言系の大日如来は太陽的な光り輝く宇宙中心的な存在であり、後光と総称される光の表明が仏の持つ重要な意味と考えられます。しかし、現代において、本尊の意味性ゆえに閉鎖的で、暗い本堂が支持されるかというとそうではない。現代的な本堂の光明デザインの設計の模索。
④書院における課題
書院は、機能的には集会 接客空間ですが、儀式時においては そこが 楽屋 控室 待合室として使われ、日常的には 住職の執務室 衣装部屋としてもつかわれています。全檀家から一名が出席して会食できる広さが必要です。こちらも、続き間型の座敷群で設計なのか等基本的な方針の決定に先立って、長期的な展望を把握する必要があります。
・檀家の法要 一周忌 七回忌 法事
自宅で法事を行うことがどんどん少なくなり その結果 お寺の利用が増加してきている。書院がその集会の場所になります。書院と庫裡の分離と結合の度合いがその状況に応じて問題となります。書院付属のセルフサービス的な湯沸し室を設け、お寺のサービスなしで集会を成立させます。
⑤庫裡における課題
庫裡と本堂をどのようにつなぐか 公私を分離しつつ繋ぎ、繋ぎながら公の侵入を遮断しなければならない。
⑥バリアフリー設計
出入り口では 霊柩車 大型車の通行も考慮して設計する必要があります。その他、バリアフリーの設計として、段差を解消した設計も望まれます。
⑦開かれた寺という課題
お寺に関わる人も葬式時に 出会う場合がほとんどです。
檀家ではない人々とどのようなコンタクトをとるかが 開かれたといことになろうかと思われます。また、寺院で、企業の社員研修や株主総会等のイベントや、地域活性化のイベント、外国人を巻き込んだイベント等が、最近の社会的な事象として存在しています。使わない時間帯は、広く一般人に開放し、これからの寺院のありかたを模索する必要性があると考えています。さらには、最近の外国人旅行者の動向を鑑みて,宿坊が今後ますます必要とされる時代がくるであろうと考えられます。これらに対する十分な検討をこれから行っていく予定です。
⑧納骨堂
その他 寺院の経営に直結するのは、納骨堂の存在です。納骨堂を如何に効率よく空間に配置していくのか十分検討しなければならない課題だと考えています。
⑨寺院の耐震改修
伝統的な構法にてつくられた寺院は、耐震対策を施していないものも多く、早急な対策が必要でしょう。通常の木造住宅よりも、構造的に複雑なものが多く、一般的な建築設計事務所では対応できないものとなっております。当方の事務所は、木造建築物の構造補強の経験が豊富であり、寺院の構造補強計画策定の経験もあり、今後も、木造建築物の耐震対策は、重点的におこなっていく予定です。
東京大学大学院 木質構造学 腰原教授監修のもと行った例
寺院の修繕・改修・新築設計について
建て替え実例
2019年
今年7月に建築確認申請をおえた寺院の建て替え工事が、着工し始めました。
解体前の寺院の外観です。南側からみたものです。西側が庫裡になっています。
先日撮った写真です。解体されました。
北側からみた解体の状態です。
南側に既存の庫裡が存在するのがわかると思います。新築の寺院と既存庫裡を行き来できるようにします。
廻りは共同住宅に囲まれています。
これから、埋蔵文化財の役所の調査ということで、少し工事がストップします。
南側からみた外観です。庫裡の奥に寺院が存在します。
前回は二階建ての寺院でしたが、今回は、平屋のこじんまりとした寺院です。
平面図です。クライアントの意向により、以前の寺院のプランがそのまま採用されています。予算的なことが大きいです。
真言宗の寺院の為、大日如来と弘法大師と不動明王の本尊をまつる空間を重要視し、あとは、外陣という典型的な構成になっています。
外陣は、広い空間の為、ここで、参拝をする以外にも様々な行事を行って、地域を活性化する試みを行っていかれるそうです。
既存の庫裡と新築寺院をエキスパンションジョイントで構造体としては切り離していますが、人が行き来できるようにしています。
お正月を挟みますが、工事を進めていきます。
2月11日の工事現場の状況です。
地中梁の鉄筋を作成して、コンクリート打ちをしている状況です。
コンクリートを練って、ポンプ車で型枠の中にコンクリートをいれていきます。
多くの職人さんがでてくれて、まんべんなくコンクリートがいきわたるように対応してもらっています。
埋蔵文化財の調査の関係で、土の掘削は、GLより1200mmm以下ということで対応しています。
コンクリートを打設している状況です。
どんどん工事を進めていきます。
現場の納まりの図です。
1階FLと、GLのラインを揃えるために、地中梁から、コンクリートを増し打ちしています。土間スラブと立ち上がり壁の鉄筋は、D13@200とします。
地中梁の構造平面図です。柱は、南北方向5500ピッチ、東西方向3500 5500 3500で処理しています。
頑丈な地中梁になっています
柱下の基礎の鉄筋の状況です。D13の鉄筋がしっかりと配置された計画となっているのがわかると思います。
2月29日 上棟致しました。
柱脚の状態です。
職人さんが接合部の調整をしています。
鉄骨と鉄骨の部材の間には ブレースがつけられており、水平構面を強くします。
北側から見た写真です。
耐火仕様は一時間耐火のロ準耐です。
3月中旬、ALC版が鉄骨に付け加えられていきます。厚さ100mmのALC版です。
鉄骨の外周部を作っています。北西側から見た写真です。
南側から見た写真です。
4月上旬 内装工事に入りました。
天井を貼るための下地を作成しています。ここから石膏ボードを貼る作業を行っていきます。
LGS下地壁は石膏ボード 12.5mmに9.5mmの二重張りとなるところがポイントです。 仕上げは杉正目中杢板底目貼りです。
屋根はガルバリウム鋼板 耐火野地板25mmが貼ってあります。防水はゴムアスファルトシート
その他 天井裏には 断熱材を敷きます。
4月下旬 内装工事の最中です。
真ん中に本尊がまつられる空間があります。床に段差をつけることにより空間に仕切りを作っています。
段差は150mmほどです。床は檜フローリング12mmです。下地に防湿シートをはります。
北側から南を見た写真です。
■竣工
内観です。
南側入り口から見た写真です。中央に本尊がおかれます。
北西側から見た写真です。
北東側から見た写真です。仏さまをまつる空間である内陣は、外陣よりも少し段差をつけて、あげています。
南東側から見た写真です。空間が広いため、空調もしっかりしたものが必要です。
これで仏さまをまつると全て完成です。
工事費用は、このような鉄骨造の建物の場合、坪単価70万円~
鉄筋コンクリート造の場合、坪80万円~。
木造の場合は、どの程度の仕様にするかで金額が大きく分かれます。
お問い合わせの流れとしては、メールもしくは電話にてお問合せ頂きましたら、直接お会いしまして、敷地を確認致します。じっくりと今後の計画を検討した後にプランを提案させて頂いて、合意頂ければ、契約となります。
契約しましたら、実施設計に移ります。建築確認申請から工事監理まで行います。
伝統的な寺院の耐震診断も含め、建て替え等 ぜひ当社までお問合せください。