犬島 精錬所美術館と 家プロジェクト見学記
建築士会の見学会で、犬島にいっておりました。
犬島は、直島と同じく、福武財団がアートプロジェクトを行っている場所です。
瀬戸内海に浮かぶとても小さな島であり、産業の盛衰が今も色濃く残る島です。花崗岩でできた島からは、大きく丈夫な石が多く取れたため、大阪城の石垣などにも使われ、江戸時代から石の産業が存在していたようです。38カ所もの石切り場がかつては存在していました。また、日露戦争から第一次世界大戦までの国内の銅の需要により、銅の精錬所がつくられました。1909年から10年間という短期間ではありましたが、多くの人が島に集まりました。最も多い時期には5000人ほどの島民が存在していたといわれています。
フェリー乗り場からみた 犬島のチケットセンターです。ここが 家プロジェクトと美術館のホールの役割を果たしています。食事をすることもできます。
チケットセンターをでて美術館に向かいます。風がけっこう強いです。
これは、カラミ煉瓦といって、100年前に行われていた銅の精錬の際にでた副産物である。大量の鉄やガラスを含み、特殊な熱特性をもっているということです。
精錬所美術館のゲートです。
第一印象から煙突の垂直性が目立ち、煙突が何か重要な役割を果たしているのだろうなということを予感させる
外観です。敷地の卓越風は 東から吹いてくるものであり、精錬所の位置は、犬島に隣接する小さな島の風下に配置されています。強風から精錬所を保護するためであり、以前の精錬所の設計は、風によって決定されていたようです。
美術館の入り口までのアプローチ。
犬島精錬所美術館 | アート・建築をみる | ベネッセアートサイト直島 (benesse-artsite.jp)
地球の動く素材の動力源は太陽であり、時代の変遷を経ても変わらない価値である太陽によって島の再生を図ることが この美術館の設計者である三分一さんの コンセプトです とのことでした。(ガイドさんの話)
精錬所の煙突群と太陽を組み合わせて、犬島の空気を動かし、さらには、前述のカラミ煉瓦を利用しています。
太陽の熱を素早く吸収して、多く蓄えられる性質を利用して空気を温める。
空気は、太陽と煙突によって、美術館の中に引き込まれる。夏は地中の通路によって冷やされ、冬はカラミ煉瓦のサンルームで太陽によって暖められる。熱を蓄える石の特性をいかして、空間の温度を安定させていく設計手法。太陽がなくならない限り、地球の営みの一つとして、永遠に空気が動き続けるということのようです。
(夏場はサンルームは開放しているため、美術館の空気を温めることはない)
個人的には、入り口通路は、ひんやりして、空気をさますのであるが、来館者には とても暗くて
歩くのが怖く、平衡感覚を失う。もう少し、改良の余地があるのではないかと思った。
犬島精錬所美術館 | アート・建築をみる | ベネッセアートサイト直島 (benesse-artsite.jp)
夏は地中の空間によって冷やされ、冬は、カラミ煉瓦のサンルームで暖められる空気が出会うホールです。
犬島の石切りの歴史を伝える巨石がおかれています。
サンルーム上部のガラス屋根。夏場は開放するため、熱はこもることがないようです。
上部窓を開放して、風を逃がす。
煙突はかなり高くまでそびえ、
重力換気で 風が上方に抜ける。
トイレで排水された、便等の有機物は、ビオトープ等で分解されて、この植物の栄養分として散水される。
植物の実は、チケットセンターの食堂にて 食事に使用される。循環が成立しているようでした。
家プロジェクト
島を歩きますと、現在存在している風景は、そうした時代が必要とした産業の変遷と人々の暮らしによって成立していることがわかります。以前、石を切り出した場所は、大きな池になり、池は、民家の庭先、港のほとりなどに点在して、島の印象的な風景をつくりだしていました。
歩いて1時間ほどで一周することができます。島は緩やかなスロープのランドスケープで覆われ、歩いていると隣に海が現れたり、消えたりします。島の集落には、平均年齢75歳の50人ほどが現在もくらしているようです。静かな瀬戸内の海、木々の緑、石の肌を表す山、果物、石を採掘した後の池、野菜畑、島民の生活の様子が、繰り返しゆっくりと現れてきます。
INUJIMA ART HOUSE PROJECT PASSPORTより
map_inujima_all_jp.png (960×678) (benesse-artsite.jp)
集落の空き家を使って、集落そのものを美術館として考えるプロジェクトが犬島の家プロジェクトのようでした。2010年に犬島家プロジェクトが始まり、空き家や空き地を借り、既存の建物を含めたその場所の特徴をいかした展示スペースがつくられています。そこでは、日本国内の作家を中心として、彼らが島で制作した作品が展示されています。2010年に3軒のギャラリー、(F,S,I邸)と休憩所、2013年に2軒のギャラリー(A,C邸)と屋外展示場所が作られました。
家プロジェクトの計画の敷地は、古い家屋が立ち並ぶ集落全体でありながら、具体的には、離れた複数の場所にあります。既存の風景に溶け込みながらも、視覚的にだけでなく、新しい集落の風景が形作られていました。
それぞれの敷地の特徴をいかしながら、建物の中から使える古材はできるだけ活かしつつ、同時にアクリルやアルミなどの素材を使用して、それぞれの場所で、異なるものを使用しています。新しくつくられるものが、統一されたものではなく、既存の風景とアートと犬島の人々の生活とが交じり合いながら現れる環境が形成されています。
F邸 基壇の上に家が存在しており、ガラス張りであるため、外からも作品がよくみえます。
建物の周囲をスロープでゆっくりと歩きながら作品を鑑賞できるように設計していました。
建築的散策路をとても楽しめる建築となっています。
中に入るととてもダイナミックな作品でした。
作者は名和晃平 作品名は 命の誕生
作者は、新たな素材を探求し、その可能性を最大限に引き出して斬新な形を作り出す彫刻家らしいです。
作品は全体を生物相とみて、ビッグバンを中心として、左右に植物相、動物相をつくるという総合的な構成。神社を背後に抱くロケーション、そこから降りてくる霊気を受け止めて新しい生の形が生まれることや、島の素材を彫刻の素材に取り入れているということでした。
迫力あります。
建築的には、トラス構造で小屋組みを支えており、接合部は、金物で補強し、
水平面は、ブレースで補強してありました。トラス構造ですが、内部に柱が存在しているのが、不思議でしたが
材を細くして、軽やかに見せるためにそうしたのかわかりませんが、妹島さんの設計です。
外側からは わからないのですが、内側から見ると外部の展示空間になっていました。
S邸
アクリルが緩やかに湾曲したギャラリー。床のラインは空調のようでした。歩道の形状にそって、ギャラリーが湾曲しているのがわかるかと思います。
作家 荒神明香氏 により、3300個のレンズがつるされ、見るものが蝶の目(複眼)を得たかのような風景がそれらを通して広がる というコンセプトのようです。
見ていて面白いです。
アクリル板はおそらく熱膨張により、湾曲して隙間ができていました。できてから10年近くたつので
仕方がないのかもしれませんが、今後のメンテナンスには苦労しそうです。
A邸
同じく 荒神明香氏の作品
上下シンメトリーに構成した造花を、円環状のギャラリーにぐるりと花の首飾りのように吊り下げた作品が続く。蝶となり、花に囲まれ、そこから異なった風景を各々が見出していくということです。
床に空調が存在しています。
休憩所です。面白い屋根の形をしていました。
これも休憩所です。この土間の上を歩くと音が共鳴し、心地よい音が響きます。
上部に穴が空いているのがわかると思いますが、吸音と反射が うまくするように設計されているようです。
なんとなく楽しい感じが現れてきます。
C邸
町会や興行が行われていた大きな家を改造したようです。
小屋組みの架構がとても魅力的な建築でした。
I邸
海へのアプローチと花畑との関係が重要なI邸
5件の展示スペースと休憩所ができ、時間とともに犬島の風景も変化する建築となっているようでした。
島の歴史と自然をどのように吸収し、読み替え、作品に反映するのか。建築とのかかわりの中でどのように形として実現するのかということがテーマだそうです。
島の風景は少しずつ更新され、人口が50人ほどまでに減った島に年間30000人が訪れるようになったということです。
個々の建築が魅力的というのもありますが、島の中を緩やかなスロープで散策しながら、建築とアートとの出会いを楽しむというコンセプトが生きており、ランドスケープと建築ということを今一度考えさせられる家プロジェクトはとても面白い という感想です。