木造住宅の設計手法①(屋根)

木造住宅の設計手法は、ここ30年あまりで大きく変わってきています。

構造は、大地震のたびに基準が強化され、熊本地震を契機に耐震等級3が標準となってきています。

構造ソフトが一般化し、許容応力度計算という精度の高い計算方法が確立され、部材寸法も無駄のない設計がなされるようになってきています。また、2025年には、4号特例が1部廃止され、2階建て以上の木造建築物は、すべて構造計算して、確認が必要となってきています。(今までは必要なかったのが不思議といえば不思議ですが。)

断熱は、かっての隙間だらけの状態から、厚く隙間なく包み込む断熱に置き換わり、樹脂サッシ、アルミ樹脂複合サッシが標準になりました。高断熱高気密という概念が導入され、壁 屋根に通気層を設けた家が 作られるようになりました。

構法は、布基礎がベタ基礎に、手刻みの軸組がプレカットに置き換わり、筋交いと火打ち梁で、地震力に抵抗するものから、構造用合板などの面で抵抗するものに変わってきています。根太レス工法という、梁に直接床材を打ち付ける工法が主流ともなってきています。

断熱、構造、構法の考え方を最新の状況におきかえながら、魅力的な住宅をどう設計するかを考えていきたいと思います。

設計の手法は、間取りから考えて、構造や屋根を考え、作っていく従来の手法を行うと、構造や断熱構法をあとから考えることになるため、具合が悪くなることもあります。庭から始まって、内と外の境界部分 屋根 →窓 → 架構 →矩計→間取り というように考えると理想的な設計手法にちかづくものとして考えていきたいと思います。

 

屋根から考える

設計においては、間取りをベースに議論を重ねて、間取りが決まれば契約し、次のステップに進んでいくのがほとんどかと思います。しかしながら、この手法では、構造に無理が生じることがあります。

屋根と外観②屋根と内観③屋根と気候風土④屋根(切妻)は妻入か平入か⑤様々な屋根

⑥屋根の軒と庇⑦空間と屋根⑧配置計画と屋根⑨切妻屋根⑩片流れ屋根寄棟の様々

⑪軒の高さを下げる⑫屋根と空間その2に関して記載していきます。

屋根と外観

建築の見た目は、屋根が大きな位置を占めます。軒の出、勾配、高さ等ちょっとした違いで印象が大きく変わります。敷地形状、空間性、コスト等をにらんで、屋根形状の最適解を提案するのは、設計者の重要な役割です。

壁と連続する切妻屋根 壁を屋根材で仕上げて、屋根と壁を連続させると個性的な外観になります。

切妻の頂部をきりとった台形屋根

屋根の片側を欠きとることは、斜線をかわす際に有効ですが、両側をかきとれば、如何にも斜線をかわしましたというデザインを回避できます。

 

腰折れの大屋根

2階建てでも軒を抑えると外観が印象的になります。

屋根を考えるときは、外からだけでなく、中の見え方を同時に意識しましょう。内部空間が見えてくると、無理のない架構、適切な窓の取り方、空間の使い方がみえてきます。

②屋根と内観

妻側から採光すると、勾配の天井に沿って、光が室内に廻ります。

 

台形の一部をハイサイドライトに

台形屋根の棟からおろした柱は、ワンルームを緩く仕切ります。屋根の形と構造を同時に考えるとデザインの幅が広がります。ハイサイドライトから射す光は、壁面に美しい陰影を描きます。

ドーム状

腰折れ屋根の変曲点に大梁を配置して、垂木を細かくかけます。

屋根は、光の入り方や空間の大きさが作り方により大きく変わるので、勾配、軒の出を適切にきめましょう。近くに伝統的な建築物の屋根があれば、それを十分に参考にします。地域の建築に倣うだけで、街の風景になじむようになるかと思います。

③屋根と気候風土

日本は、雨の多い気候であるため、古建築は、軒が深く低いものになります。屋根を重ねたり、入母屋にして軒を下げれば、横殴りの雨も防げ、壁面や開口部も傷みにくくなります。

雪の多い地域では、雪下ろしの手間を減らすために、急勾配の屋根で雪をおとすか雪をのせたままにするかという方法がとられます。

太陽光発電や、屋根面利用の集熱装置がある場合は、効率を考慮して、向きや角度が決まります。北上がりの片流れ屋根が最も効果的に発電できますが、あまり形もよくないです。切妻を基本とするほうが良いかと思います。

④屋根(切妻)は妻入か平入か

切妻屋根には、妻入りと平入りがあり、玄関の位置と屋根の方向が意匠的には重要です。

妻入りは、象徴性を重視したタイプで、古民家などでよく用いられますし、雪の多い地域では、建物へのアクセスの容易さを考えているともいえます。

平入は、町家のように連棟になる場合に用いられます。道路と庭が南向きになる場合は、日射の取得と遮蔽がしやすい平入が 優れているといえます。柔らかい印象となります。

⑤様々な屋根

平面形状により、様々な屋根をかけることができます。複数の屋根を組み合わせれば、さらに多様な屋根をつくることが可能です。しかしながら、複雑になればなるほど、端部等で雨漏れが起こりやすくなるため、できるだけシンプルな形が望ましいといえます。

もっともよく用いられるのは、切妻屋根(妻入り 平入)→寄棟屋根→片流れ屋根の順となります。

寄棟は、モダンな低い軒先としたいのであれば、検討してよいでしょう。構造は切妻よりも複雑になります。片流れ屋根は、水上や軒ゼロの壁取り合いの雨漏れには注意したいところです。

片流れ屋根 施工は容易だが、高くなったほうの壁量が多くなるので、結果的にコストが高くなることもある。

腰折れの片流れ屋根

斜線を交わしながら、片流れの気積を確保します。

差し掛け屋根

高さのずれた部分に開口を設けることで、採光、換気が可能です。

大屋根

陸屋根

外観は整って見えるが、防水への配慮が必要

ウ”ォールト屋根

曲面天井

バタフライ屋根

谷部に雨水が集中する難点があるが、平側の2箇所に大きく開口がとれる。

湾曲流れ

湾曲させれば、外観、内観ともに柔らかな印象を生み出すことができる。

鋸屋根

屋根上部の窓から一定の間隔で採光できるため、床面積の多い建物に適します。

無落雪屋根

主に豪雪地帯で、屋根の谷間部分に雪を溜めるために用いられる。

折半屋根

基本的には鉄骨造で用いられる。

施工が容易。

半切妻

寄棟 多方向から斜線を交わしやすい。都市部に多くみられる。

方形

シェル 小断面部材で屋根を構成できるという利点

しころ

切妻の四隅に庇が付き、下部が空間化したもの

入母屋

上部が切妻で 妻側の下部が寄棟の形状 納まりは複雑。

 

 

母屋下がり

切妻の片側だけが途中から折れた形状

駒形屋根

屋根裏空間を有効に利用できる

マンサード屋根

屋根裏の空間を大きくできる。

多角形屋根

形は面白いが、多くの隅木が一点に集まるため 頂部でのおさまりが難しくなる。

屋根の仕上げ材と勾配

仕上げ材としては、金属、化粧スレート、瓦があります。

ガルバリウム鋼板は、10-20年程度で塗装は劣化しますが、さびにくいです。

金属は、緩い勾配から急勾配まで対応可能。

瓦屋根は、4寸から6寸の勾配です。割付が必要になるため、瓦の寸法を最初から意識する必要があります。

⑥屋根の軒と庇

真南向きの建物であれば、軒の高さの3割程度の軒の出にすれば、夏は日差しを遮った涼しい家に、冬は日差しを取り込める暖かい家にすることができます。

総二階の場合でも、1階の窓の上に庇をつけるようにすれば、夏の日中、暑すぎて使えなくなる部屋になるのを防ぎます。軒下空間は、奥行き1間ぐらいあると、人が佇める空間に

なりますが、日射取得という側面からすると大きすぎます。

二階の軒を1820mmさしだすという手法。この場合は、1階はシェードなどを利用

軒の出た2階を1階よりも910mm大きくして、奥行きのある中間領域をつくる方法。

日射取得と奥行きを十分にとった中間領域をとりたい場合には、集熱窓と中間領域を別の場所で確保します。

⑦空間と屋根

屋根は周辺環境をふまえ外側から決めていきますが、内側から考える場合もあります。

最上階をフラット天井にするなら、2寸程度までの緩い勾配の屋根がよいです。

小屋裏をロフトにしたいならば、1.4mの天井裏がとれるように4寸から10寸の勾配を確保しましょう。ロフトの床は剛床にする必要があります。

小屋裏を部屋にしたいならば、途中で勾配を変えるなどの工夫が必要です。傾いた壁は耐力壁として利用しましょう。

急勾配の切妻屋根は中央部の天井高さが高くなります。妻面から適切に光を導けば、教会建築のような象徴性や上昇感がうまれます。

屋根の上にさらに小さな小屋をのせた越屋根は、中央部に光を導いたり、熱気抜きとしても利用できます。

切妻屋根をずらして、ハイサイド上に高窓を設けると天井面を明るく照らす光が導けます。日射遮蔽は難しいので、高窓の方位に注意してください。

⑧配置計画と屋根

 

①駐車場の計画②庭の計画③建物の計画

という順に配置します。建物の平面は長方形かつ東西幅ができるだけ大きくなるように計画するのが基本です。短辺は5400以上が理想的です。庭の南北幅は、5mを目安に日当たりを考慮します。北になるだけよせたほうが良いという話もありますが、敷地が広い場合は、北庭の効果も抜群ですので、北庭も検討しましょう。

上記の平面が、坪単価、建蔽率、居住者数(25m2/一人)に合致するように調整していきます。

平面計画がきまれば、高さ7.5mくらいの高さの直方体にして、斜線制限がかかるか検証します。

これで屋根を検証します。

 

木造住宅は、天井懐をへらして、軒高さや階高さを極限までさげると水平性が強調され、安定感のあるプロポーションにまとまります。軒の低い平屋ですと、掃き出し窓と耐力壁だけで立面をつくることが可能ですから、立面もまとまりやすいです。縁側にデッキをもうけると水平性が強調されます。

背の高い総2階の住宅は外観があまりよくないです。仕上げや庇などで階を分節すれば、立面を整えることができます。

⑨切妻屋根

屋根はまずは、切妻を考えます。

 

夏の日射遮蔽、冬の日射取得を考えると、南が平側の屋根が自然です。

 

 

南北に長い敷地は、南を平入にすると家の中央が高くなりすぎます。この場合は、妻入りとしたほうがよいです。

軒ゼロの切妻を一階の上にのせます。また、切妻の片方の屋根を伸ばして、非対称の大屋根にし、1階の上にのせます。

袖壁とケラバで家形のフレームを作り、切妻の妻面を囲います。流れ造り風に切妻に緩い勾配屋根をプラスしたもの。

⑩片流れ屋根寄棟の様々

片流れ屋根を風景になじませるには勾配を緩くして、箱型で見せます。その他 切妻屋根の頂部だけを部分的に寄棟形状にするなど。

複数の片流れ屋根を組み合わせれば自由な形を作ることができます。

⑪軒の高さを下げる

軒が低いほうがバランスの良い立面になります。縁側のような中間領域も軒が低ければ低いほど囲まれ感が生まれ居心地がよくなります。軒が低くなると、内部の勾配天井も下がってきますが、勾配天井は、高いところと低いところの差がしっかりあるほうが、空間が魅力的になります。

軒をギリギリまで落としてみましょう。2100mmを目安に。

 

⑪屋根と空間その2

空間の広がりやつなげ方、天井や床の高さや光の取り込み方、風の抜け、屋根の勾配、軒の出を考えながら楽しそうな断面を考えます。

断面図を描いて、それを押し出してみると、魅力的な空間に変わる可能性があります。

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